豚暦

豚に足跡なく月日あるのみ

会社に人文書を押し付けるという嫌がらせ

某年某月某日、私が勤務している某社に社内図書館なるものができた。

どんな本があるのかと、蔵書リストを見てみると……。

 

技術書:まぁ必要よな。

実務書:まぁ必要よな。

自己啓発書:なんか知らんけど大量にあるぞ

人文・社会科学系の本:そんなものはない。あるとしてもしょうもないのが少々。

 

 自己啓発ばっかやんけ!!!私が読みたいと思うようなものは、当然ない。

ならばどうするか?

 私の本棚に眠っている、読んだ本や読んでない本や途中で投げた本や買わなくてもよかったかもと思う本を、いくらか寄贈してやろう。この混沌とした自己啓発書の山を、何の役にも立たない人文・社会科学系の本の光で照らしてやるのだ。

 ……という頭の悪い発想で本を大量に押し付けた。本を押し付けるにあたり、「こんな本寄贈したいんですけどいいっすか? どんな本なのか、独断と偏見でリストもつけたぜ」という内容のビジネスメールを担当者に送りつけた。すると「いいっすね、持ってきて!」と二つ返事。ありがたく受領されたのは嬉しいが、せっかく作ったリスト絶対読んでねぇだろこれ……。というわけで、その時に作ったリストを、ここに供養したい。御線香でも挙げてね。

 

ーー以下(企業秘密は含まれてないよ♡)

 

献本検討中の書籍の書誌情報と簡単な内容紹介(場合によっては私的なコメントや類書リコメンド)。

副題を略さない方が内容が分かりやすいと思った本以外は副題を省略している。

 

『感情を生きる パフォーマティブ社会学へ』

摂食障害や喘息などの各人の経験を、対話を通じて深めるとともに、その経験の社会(学)的意味も探求するという、やや特殊な社会学

 

植村和秀『ナショナリズム入門』講談社現代新書、2014年

各地域のナショナリズムの形成や葛藤を、歴史と理論の両面から具体的に解説する入門書。

言うまでもなく、ナショナリズムとは、同質な(同質とされる)“民族”“国民”への愛着や、その一体性や国家を形成しようとする思想や運動のこと。程度の差はあれ、地域・“民族”・国家の範囲が完全に重なるということはまずなく、ナショナリズムの歴史は葛藤と紛争の歴史である(例えばトルコ系民族は各地に散在し、ある集団は自ら国家を形成し、ある集団は別の国で少数民族として存在している。最大のトルコ系国家「トルコ共和国」は国内の少数民族を強引に同質化しようとしてきた歴史があり、しかもそれは現在進行形である)。

 

國分功一郎『はじめてのスピノザ講談社現代新書、2020年

人間が自分を自由だと思うのは、投げられた石が自分が自由に空を飛んでいると思うのと同じこと――。そんな比喩を述べたことで有名な哲学者スピノザの思想の入門書。

 

川戸貴史『戦国大名の経済学』講談社現代新書、2020年

タイトルの通り。諸大名の財源、収支、貿易、金策、撰銭、経済政策などについて。

 

千葉哲也現代思想入門』講談社現代新書、2022年

死ぬほど難解なことで名高いデリダフーコーなどのフランス現代思想についての入門書。哲学系の『~~入門』という本は「入門詐欺」と呼ばれがち(要は「入門」のくせにムズくて入門できない)だが、本書は分かりやすいと好評である。

 

小笠原弘幸『オスマン帝国英傑列伝』幻冬舎新書、2020年

オスマン帝国初代君主のオスマン1世から、オスマン帝国を滅ぼしトルコ共和国を建国したムスタファ・ケマルに至るまでの、オスマン帝国の人物10人を取り上げた本。オスマン帝国(1299~1922年)は最盛期にはバルカン半島北アフリカ、中東まで版図を広げた多民族国家で、人材登用も活発であり、民族や宗教などに多様な出自を持つ人々に活躍の機会が与えられていた(今風に言えば「ダイバーシティがある」国)。本書で出てくる10人も、それぞれ多様な背景を持つ人々である。

 

那覇潤『歴史なき時代に』朝日新書、2021年

著者は歴史学者だったがうつ病を発症して廃業し、評論家を自称するようになった人。本書は対談やコロナ禍の中で量産した評論を集めたもので、同調圧力や専門家の態度などを口を極めて罵っている。

 

西田知己『血の日本思想史 穢れから生命力の象徴へ』ちくま新書、2021年

「血縁」「血統」というような、同族のつながりを現す「血」という用法は江戸時代以前には存在せず、古代・中世ではもっぱら死の穢れを現すものだった――。そのような「血」の用法や概念の歴史を辿り、ネガティブな意味合いが消えてゆき変遷する過程を描く。

 

玉木俊明『ヨーロッパ 繁栄の19世紀史』ちくま新書、2018年

海運の発達しと電信の普及とともに世界の一体化が大いに進展し富がヨーロッパに集中、ヨーロッパ列強が世界の分割を大いに進展させ、繁栄を極めた19世紀を描く。その繁栄の中、イギリスが海上保険・電信・通信をほぼ独占することにより手数料でボロ儲けし、世界経済の発展がそのままイギリスの利益に奉仕するシステムを築き上げているのが印象的である。

 

玉木俊明『金融化の世界史』ちくま新書、2021年

近代にヨーロッパが植民地支配から得た富で消費社会を形成し、さらに工業化によって耐久消費財を大衆が消費する大衆消費社会を経て、金融の富が爆発的に増加する現代の「金融化」に至るまでを描くグローバル経済史。かつて砂糖植民地としてヨーロッパに作用を供給し消費社会の成立を助けたカリブ海諸国が、現代では金融化に適応?して租税回避地となっているのは面白い。

 

関口高史『牟田口廉也インパール作戦光文社新書、2022年

第二次世界大戦における日本軍のインパール作戦は、多大な犠牲を払った「無謀な作戦」として悪名高く、指揮官の牟田口中将は現在でも「愚将」「無責任」の代表格として罵詈雑言が浴びせられている。本書は従来あまり叙述されなかった牟田口の伝記を丹念に辿り、その任務遂行を重視する生真面目な人物像を明らかにするとともに、その人格が作戦指導においていかにマイナスに働くに至ったかに焦点を当てる。なお、インパール作戦については、日本軍の組織としての要因に焦点を当てたものとして『失敗の本質』(中公文庫)、不適材不適所を生み出した陸軍の人事のあり方に注目したものとして広中一成『牟田口廉也―「愚将」はいかにして生み出されたのか』(星海社新書)がある。

 

大木毅『「砂漠の狐ロンメル』角川新書、2019年

WW2でドイツ軍の伝説的名将として名高いロンメルについての実証研究に基づく伝記。

 

ウルリヒ・ヘルベルト『第三帝国』(小野寺拓也訳)角川新書、2021年

ナチズム研究の第一人者が書いた入門書。第一次世界大戦前(帝政ドイツの時代)から説き起こす。ナチズムの東欧支配を植民地支配の変種として議論することが特色である。訳者はナチズムについての誤情報や数十年前の研究水準のままの情報が一般に流布していることに危機感を持って本書を訳したという。他のナチス関連の良質な入門書としては、石田勇治『ヒトラーとナチ・ドイツ』(講談社現代新書)、リチャード・ベッセル『ナチスの戦争 1918-1949』(中公新書)、芝健介『ホロコースト』(中公新書)などがある。

 

鈴木健介『未来を生きるスキル』角川新書、2019年

著者は2022年11月29日に襲撃された社会学者・宮台真司の弟子。AI時代の社会をよりよく生きるためにいろいろ言っている本だが、著者が社会学者なだけあって、しっかりした現状整理の上で提言を行っている。

 

木澤佐登志『ニック・ランドと新反動主義星海社新書、2019年

そうそう目にしない、現在の「暗黒啓蒙」の思想を扱った本で、本自体も真っ黒。資本主義に抵抗・批判を行うのではなく、「疎外」などの資本主義の負の側面も含めてそれをより先鋭に推進することで突き破る、「悪くなればなるほど、よくなる」という「加速主義」など、最新の変な思想の諸潮流が描かれる。

 

多胡淳『戦争とは何か』中公新書、2020年

国際政治学における戦争の研究は、国際的要因・国内要因など、それぞれの戦争に関連する具体的な歴史を研究し分析するのが一般的だが、本書は歴史上の各戦争をデータ化し、データ分析による統計的な戦争研究を行うという新しい(「科学的」)方法を採用している。「民主主義国家同士は戦争をしない」などの国際政治学における有名なテーゼも、歴史的・理論的な分析ではなく、データセットから統計的に検証されている。

 

村田晃嗣『大統領とハリウッド』中公新書、2019年

アメリカ大統領が登場する映画と、現実の歴史の大統領を往復しながら、アメリカ現代史の一面を描く。映画における大統領の描かれ方(英雄だったり、悪役だったり)に現実のアメリカ大統領への希望や不満が投影される一方、現実の大統領が映画的な自己演出・イメージ戦略を行うこともあり、フィクションと現実の間の相互作用に注目される。

 

鴋澤歩『鉄道のドイツ史』中公新書、2020年

経済史の観点から、ドイツの鉄道の歴史を一望する本。フリードリヒ・リストの国民経済論やドイツ統一問題などの政治的な問題まで、色々な要因を包括して叙述されている。

 

滝川幸司菅原道真中公新書、2019年

天満宮の「学問の神様」として名高い、平安時代初期の政治家・菅原道真の伝記。著者が国文学畑であるだけに、漢詩人としての側面が詳しく描かれている。

 

藤原聖子『宗教と過激思想』中公新書、2021年

洋の東西に存在する、暴力や殺害も厭わない宗教的過激思想を取り上げつつ、各々に通底する共通項を見出していく。

 

空井護『デモクラシーの整理法』岩波新書、2020年

「整理法」と銘打ってあるが、整理しようとした結果余計にこんがらがって難解になっているだけでなく、デモクラシーとリベラリズムを意図的に混交した議論を展開しており、読んでいてぶん投げたくなった本。他の人がどんな感想を持つのかある意味気になる。

 

日本史史料研究会編『信長研究の最前線』朝日文庫、2021年

信長は「革新者」であるとするイメージは世間一般に根強く、定期的に再生産されている。そのような信長像はとっくに学界では見直されているが、学界の研究成果は世間には驚くほど反映されていない。本書は新研究の成果を一般に向けて問うたもの。読みやすい良質な類書としては、すずき孔『マンガで読む 新研究 織田信長』(柴裕之監修。戎光祥出版、2018年)、金子拓『織田信長』(講談社現代新書、2014年)、同『織田信長 不器用すぎた天下人』(河出書房新社、2017年)などがある。

 

猪木正道『独裁の政治思想』角川ソフィア文庫、2019年

「独裁は暴政とは異なり、自己を正当化する政治理論・思想を持つ。にもかかわらず、暴政へと常に変質していく。指導者は一日でも長く権力のポストに止まろうとするからだ。その20世紀の2大典型、スターリンヒトラーの政治思想を理論史的に究明し、独裁体制の特質を明示した金字塔的著作」(裏表紙より)。裏表紙の紹介が端的で贅言を要しない。

 

東浩紀『一般意志2.0 ルソー、フロイト、グーグル』講談社文庫、2015年

一般意志とは、ある国家の全市民が自らの私益に捉われず「公共の利益」だけを考慮して表明した意志のこと。18世紀の思想家ルソーの人民主権論の中心となる概念だが、言ってしまえば一般意志などというものは存在せず、妄想の中だけにある概念に過ぎない。が、「一般意志は現実に存在する! それはインターネットに蓄積されたデータベースだ!」と突拍子もない主張をするのが本書。インターネット論・情報社会論と政治思想の古典を結合させ、新たな民主主義を探るという壮大な試み。なお、最近はグーグルの検索汚染などもあり、著者もこの本を書いた時(初出は2011年)の楽観的な見通しは修正している。

 

東浩紀『弱いつながり 検索ワードを探す旅』幻冬舎文庫、2017年

「ググれカス」というネットスラングがあるが、検索する言葉を知っていないとそもそもグーグル検索が出来ない。グーグル先生がなんでも知っているかに見える世界で、人間がよりよく生きるためには、身体の移動・旅・人との「弱いつながり」から、「新しい検索ワード」を探すしかない――。そんなことが書いてある本。最近では現代文の教科書にも掲載されているらしい。

 

東浩紀『ゆるく考える』河出書房新社、2019年

インターネット老人で元哲学者である東浩紀の批評集。連載などを一書にまとめたもので、諸論考は平成の批評家として彼が自己を確立する過程の試行錯誤に当たる。

 

那覇潤『平成史 昨日の世界のすべて』文芸春秋、2021年

もう歴史になってしまった「平成」を、政治・文化・社会・思想を含む広い視野でまとめた本。著者特有の「歴史を喪失した時代」「“父”が死んだ時代」として平成を見るスタンスには賛否は分かれるだろうが、一人の史家の目線で平成を描き切っているのは壮観ではある。(が、政治史パートはやや退屈。退屈しない平成政治史の名著としては大井赤亥『現代日本政治史』ちくま新書、2021年がある)

 

那覇潤『歴史が終わるまえに』亜紀書房、2019年

歴史が不要とされる時代になってしまった、と悲観する著者の、歴史学者政治学者、社会学者などとの対談本。若手同士の対談が多いためか、ニッチな内容もカジュアルに面白く話していたりするところが多く、その点は魅力である。

 

森本あんり『アメリカ・キリスト教史』新教出版社、2006年

タイトルのまま。このような地道な研究の積み重ねが、後の同氏の名著『反知性主義』『不寛容論』(ともに新潮選書)、『異端の時代』(岩波新書)に繋がってくる。

 

小林純『続ヴェーバー講義 政治経済篇』唯学書房、2017年

著名な社会学者・政治学者・経済学者であるマックス・ヴェーバーについて。『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』などの主著よりも、政治経済に関する細かい各論が取りあげられている、やや専門的な本。そもそもヴェーバーって誰やねん、という方には、伝記としては今野元『マックス・ヴェーバー』(岩波新書、2020年)、思想内容としては『マックス・ウェーバー』(中公新書、2020年)が勧められるが、そもそも社会学の入門書(ウェーバーはほぼ100%出てくる)で触れる方がわかりよいかもしれない。

 

鈴木哲也『学術書を読む』京都大学学術出版会、2020年

専門外の専門書を読む意味やどう読めばいいか、などについて。「本の読み方本」などはこの世に死ぬほどあって、「読み方なんざ人それぞれやろがい」と突っ込みたくなりがちだが、本書は対象を絞っているだけまだ説得的なのかもしれない(知らんけど)。

 

堤林剣『政治思想史入門』慶応義塾大学出版会、2016年

古代ギリシャと近世のマキャヴェリホッブズ、ロック、ルソーが対象(中世については、「第五章 ワープ!」というふざけたタイトルの章がある。簡略な西洋思想史の本では中世は言い訳程度にトマス・アクィナスに触れて「やったこと」にされがちだが、それに比べると潔くて遊び心がある)。「批判的思考を鍛える新しいテキスト」と銘打ってあり、おそらく下手に知識がある人よりも、知識がない人の方が楽しめるしためになるタイプの本であると思われる。(下手に知識のある人にとっては、16世紀フランスの主権論や暴君放伐論=モナルコマキを扱う、同著者のより専門的な『「オピニオン」の政治思想史』(岩波新書)の方が読みやすいし面白いであろう)

 

ーー以上

 

 挙げた本について少し話したい。

東浩紀の著書たち

 ネット上でサービスを展開している部署の人は読んでも損はないんじゃないかと思う。ちょっと古くなってるけど、まぁ脳に刺激を与えてくれ。いんたーねっつの思想的意義を考えながらサービス展開をだな……(適当(お前がやれ))

・牟田口の本

 サラリーマンってこういうのが好きなんでしょ!?(偏見)

・玉木俊明のグロヒスちくま新書シリーズ

 経営陣の皆さま読んで。私のような末端の傭兵はそんなでかいスケールの話を勉強しても役には立たないけど、あんたらは違う。時代的にも空間的にも、それくらいのスケールの知識は持ったうえで経営やってくれ。そんで業績上げて、雇用とおちんぎんを増やして♡本当は寄贈せずに持っていたかった本なんだけど、べ、別にあんたのために寄贈したわけじゃないんだからねっ!

・『第三帝国

下○沢の古本屋で200円で転がってた。コンパクトで素晴らしい入門書。これも持っていたかった本だけど、これは公益に適いそうな本だから寄贈した。

 

まぁどうせ誰も読まんやろうけどな!!!

寄贈した本もこのクソ記事も誰も読まんから、この記事が会社の人にばれて怒られることもないやろ、ガハハ(フラグ)(ばれたところで、公序良俗に反してないし、バイトテロ的なこともやってないし、企業秘密も漏らしてないから怖くない)